徒然日記

感想等、その他諸々をごった煮でまとめます

推し、燃ゆ読了

岡本太郎の著作のなかに、坂本九との出会いのエピソードがある。 坂本九はテレビの出演で忙しい時期で、岡本太郎坂本九に「人気者は大変だなぁ」と言ったらわぁ!!!と泣き出したという。 岡本太郎はそのとき、テレビでの虚構で生きるタレント、アイドルの孤独さを感じ取ったという。本当の自分の内面を理解する人がいないという孤独さを。

青春期から大人を経るにあたり、何かしらの重圧に潰されそうな気持ちがちょっとした弾みで何かがはじける。

「推し、燃ゆ」は大人に至るまでに経験する、衝動、カタルシスを巧みに描いた青春期の文学作品だ。

小説では主人公自身の描写はほとんど語られない。 「自分自身とは何か、自分はどう思うか」ということを言語化できない、現代っ子を表現するため。 また主人公自身が発達障害セルフネグレクトの傾向があり、それも理由の一つとしている。 これは地の文や文体にも表現されている。場面転換や主人公自身に起きたこと、主人公自身が感じたことなどはほとんど記載されていない。まるで、ピンホールのような小さい眼鏡をかけて生活しているような読後感。

推しを見る主人公の様子を読書をとおして観察することで、主人公の感情、あるいは主人公の意識自身も気づいていない、感情や思いを行間からくみ取らせようとしている。

「推し、燃ゆ」はとても実験的な作品だ。青春小説でよく起こるアイデンティティの消失と、最後の破壊衝動とカタルシス。 おそらく著者が一番伝えたいことは、この「言葉にできない生きづらさを伝えつつも、それでも這いつくばって生きるしかないということ」。 人を選ぶ作品だが、唯一無二の行間と読後感感じてもらえたらと思う。